努力は、成功の“必要条件”ではあっても、“十分条件”ではない。

これまで35年以上、学習塾の現場で生徒たちと向き合ってきました。
その中で、何度も伝えてきた言葉があります。
それが、「努力は裏切らない」という言葉です。
この言葉は、私にとって大切な信念であり、生徒たちへのエールでもありました。
一生懸命がんばれば、きっと報われる。
その思いが、生徒たちの背中を押すと信じてきました。
でも正直に言えば、私自身、この言葉に裏切られたように感じた経験が、何度もあります。
努力した。必死でやった。命を削るような思いで、何年もやってきた。
けれど、結果がついてこない。
思い通りにならないことの方が多い。
それが、現実です。
それでも、「努力は無意味だ」と思ったことはありません。
むしろ今はこう思うようになりました。
努力は、成功の“必要条件”ではあっても、“十分条件”ではない。
つまり、努力をしても、それだけでは報われないことがある。
そこに必要なのは、「チャンス」です。
あるいは、「運」と呼んでもいいかもしれません。
どれだけ努力しても、その努力が活きる「場」に出会えるかどうか。
誰かがその努力に気づいてくれる「タイミング」があるかどうか。
その巡り合わせがあるかどうかで、人生は大きく変わる。
それもまた、私がこの年齢になって実感していることのひとつです。
教育の視点から見れば…
確かに、努力は学力やスキルの向上につながることが、教育学的にも示されています。
特に「継続的な学習」が成果に直結するという研究は多く存在します。
しかし、努力を“成果”だけで評価してしまうと、
子どもの心は折れてしまうことがある。
目に見える結果が出なくても、「よくやってるね」と声をかけられる環境。
それが子どもにとって、何よりの支えになります。
社会の視点から見れば…
努力だけでは届かない壁――
それは社会の中に確かに存在します。
競争がある社会では、「努力する人」よりも「運よくチャンスをつかんだ人」が評価されることもある。
どれだけ努力しても、「その努力が報われる場所」にいなければ、成功にはつながりません。
つまり、“チャンス”や“運”との出会いもまた、成功には欠かせないピースなのです。
心理の視点から見れば…
心理学では「自己効力感(self-efficacy)」という考え方があります。
これは、「自分はやればできる」と思える感覚。
努力を続けるには、この感覚がとても大切です。
でも、この感覚は、「少しずつでも成果を感じられる環境」でないと育ちにくい。
だから、成果が出ない努力を続けることは、実はとても難しいことなんです。
むしろ、続けられる人こそ、特別だと言ってもいい。
私はいま、こう考えています。
「努力は裏切らない」──これも真実です。
けれど同時に、「努力だけでは報われない」という現実もまた、
子どもたちに正直に伝えていかなければならないことだと思うのです。
そして、
「チャンス」や「運」と出会えるかどうかも、人生において大きな意味を持つ。
そこまで含めてこそ、初めて「成功」が形になるのではないでしょうか。
だからこそ、私たち大人は、子どもたちが努力を続けたくなるような「場」と「言葉」を、
そしてその努力が報われる「機会」を見守ってあげる存在でいたいと思うのです。

守田 智司

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