道標

昨日、ふと実家を訪れた。
仏間へ向かうと、母が静かに仏壇の前でお経をあげていた。
92歳になる母の背中は、以前よりも丸くなっていた。
その姿を見て、私は何も言わず、
自然とその横に座り、3年前に旅立った父に手を合わせた。
母の声が部屋の空気をやさしく揺らしていた。
私は吸い込まれるように、
ただ静かにその隣に座り、
目を閉じて手を合わせた。
お経の声に耳を傾けているうちに、
ふと心の中にこんな想いが湧いた――
「ああ、ここは自分が帰ってこられる場所なんだな」と。
60歳になった今の私が、
まるで少年の頃に戻ったような気がした。
母の横で、何も考えず、
ただそこにいることが、あまりにも自然で、心地よかった。
時間が止まったような、穏やかなひととき。
何気ない日常の一場面なのに、
心の奥深くにそっと沁み込んでいく。
こんなふうに、何も語らなくても、
心の奥に確かに届く時間がある。
それは、日々の喧騒の中で忘れかけていた、
“やすらぎ”のようなもの。
少年の心をそっと呼び戻してくれる、母の声とともに――
今日は静かに、時に手を合わせた。
福山雅治 – 道標(福山☆夏の大創業祭 2015 稲佐山)
福山雅治の「道標(みちしるべ)」は、彼自身が実母に捧げたと言われる、深い愛情と感謝を綴ったバラードである。NHKドラマ『帽子』の主題歌としても知られ、シンプルなギターとピアノの旋律が、聴く者の心に静かに沁みわたる。「生きてゆけ おまえはひとりじゃない」――このフレーズには、母が子に託す祈りにも似た優しさが込められており、福山の歌声がその想いをそっと運ぶ。さらに「その笑顔に出逢うため 僕は生まれてきた」と歌う彼の言葉には、母という存在が、人生の“道標”であったことをあらためて思い出させてくれる力がある。この曲は、母の日や帰省のとき、あるいは感謝をうまく言葉にできないときに、そっと心を代弁してくれる一曲だ。

守田 智司

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