道標

 

昨日、ふと実家を訪れた。

 

仏間へ向かうと、母が静かに仏壇の前でお経をあげていた。

 

92歳になる母の背中は、以前よりも丸くなっていた。

 

その姿を見て、私は何も言わず、

 

自然とその横に座り、3年前に旅立った父に手を合わせた。

 

母の声が部屋の空気をやさしく揺らしていた。

 

私は吸い込まれるように、

 

ただ静かにその隣に座り、

 

目を閉じて手を合わせた。

 

お経の声に耳を傾けているうちに、

 

ふと心の中にこんな想いが湧いた――

 

「ああ、ここは自分が帰ってこられる場所なんだな」と。

 

60歳になった今の私が、

 

まるで少年の頃に戻ったような気がした。

 

母の横で、何も考えず、

 

ただそこにいることが、あまりにも自然で、心地よかった。

 

時間が止まったような、穏やかなひととき。

 

何気ない日常の一場面なのに、

 

心の奥深くにそっと沁み込んでいく。

 

こんなふうに、何も語らなくても、

 

心の奥に確かに届く時間がある。

 

それは、日々の喧騒の中で忘れかけていた、

 

“やすらぎ”のようなもの。

 

少年の心をそっと呼び戻してくれる、母の声とともに――

 

今日は静かに、時に手を合わせた。

 

 

 

 

福山雅治の「道標(みちしるべ)」は、彼自身が実母に捧げたと言われる、深い愛情と感謝を綴ったバラードである。NHKドラマ『帽子』の主題歌としても知られ、シンプルなギターとピアノの旋律が、聴く者の心に静かに沁みわたる。「生きてゆけ おまえはひとりじゃない」――このフレーズには、母が子に託す祈りにも似た優しさが込められており、福山の歌声がその想いをそっと運ぶ。さらに「その笑顔に出逢うため 僕は生まれてきた」と歌う彼の言葉には、母という存在が、人生の“道標”であったことをあらためて思い出させてくれる力がある。この曲は、母の日や帰省のとき、あるいは感謝をうまく言葉にできないときに、そっと心を代弁してくれる一曲だ。

 

 

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守田 智司

愛知県蒲郡市にあるMANALABO代表。10代で愛知県から大阪、東京まで自転車で走破!大学中は、バックパック1つで、アメリカ1周。卒業後、アメリカ・アトランタにて「大工」を経験。帰国後15年間、大手進学塾の教室長・ブロック長として教壇に立ち、2005年独立。 大型自動二輪、小型船舶2級免許所得。釣り、ウォーキングが好き!作家は、重松清さん、音楽は、さだまさしさんが好き。「質より量より更新頻度」毎日ブログを更新しています。
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