子どもの「心の振れ幅」を理解するということ

― 教育と心理、そして発達の視点から ―
子どもによって、心の「振れ幅」は大きく異なる。
これは子どもに限った話ではなく、大人も同じだが、成長過程にある子どもほど、その差は顕著に表れる。
育ってきた家庭環境、兄弟構成、性別、年齢、経済状況。
こうした要因は、子どもの自己評価や他者の言葉の受け取り方に大きく影響する。
たとえば、同じ「すごいね」という言葉でも、
ある子は「自分は価値のある存在だ」と前向きに受け取り、次の行動へとつなげる。
一方で、別の子はその言葉を軽く受け流し、心にほとんど残らないこともある。
逆に叱責の言葉も同様だ。
「次、頑張ればいい」と気持ちを切り替えられる子がいる一方で、
「自分はダメな人間だ」と自己否定にまで思考が及び、行動が止まってしまう子もいる。
これは能力の差ではなく、心の振れ幅の違いであり、
心理学的には「自己効力感」や「レジリエンス(回復力)」の個人差として説明される。
観察なき指導は、時に刃になる
教育者や指導者に求められるのは、
「何を言うか」以前に、「誰に言うか」を理解することだ。
この子は、励ましで伸びる子か。
この子は、具体的な課題提示が必要な子か。
この子は、まず安心感を与えなければ前に進めない子か。
心理学では、これを個別化されたフィードバックの重要性として捉える。
同じ言葉でも、子どもの状態によっては“栄養”にも“毒”にもなり得る。
しかし現実には、大人は忙しい。
十分に観察できず、何気なく発した一言が、子どもの心に強い影響を残してしまうこともある。
だからこそ、「子どもの心は一律ではない」という前提を、
意識として持ち続けることが重要なのだ。
学習負荷は「消化できる量」でなければならない
この考え方は、学習指導にもそのまま当てはまる。
同じ宿題を一律に課すこと自体は、決して否定されるものではない。
しかし、より理想的なのは、その子が今、消化できる量と質を見極めることだ。
体調が悪いときに硬い食べ物を与えれば、消化不良を起こす。
逆に、体が元気で成長期にあるなら、十分な栄養が必要になる。
学習も同じで、
心が疲れている子に過剰な負荷をかければ、学習そのものが拒否反応になる。
一方で、余力のある子には、適切な挑戦を与えなければ成長は止まる。
発達心理学や教育学の観点では、これは
「最近接発達領域(ゾーン・オブ・プロキシマル・ディベロップメント)」
― つまり「少し頑張れば届く課題」を与えることの重要性として説明される。
教育とは、言葉と負荷を調整する営み
教育とは、知識を与えることではない。
その子の状態を見極め、
「今、この子に必要な言葉」と
「今、この子が受け止められる負荷」を調整する営みだ。
子どもの心の振れ幅を理解すること。
観察し、急がず、比べず、その子のペースを尊重すること。
それは手間のかかる仕事だが、
その積み重ねこそが、子どもを前に進ませる力になる。
教育とは、効率ではなく、理解から始まる。
私はそう考えている。
守田 智司
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