塾長、古道具屋準備中

小さな学習塾を二十年以上続けてきた。

まさか自分が古道具屋をやるなんて思ってもいなかった。

 

 

きっかけは三年前。父が亡くなったときだった。

遺品の整理をしていると、父が丁寧に箱にしまっていた皿や器がいくつも出てきた。

どれも大切に保管されていて、まるで時が止まったように静かに並んでいた。

その光景を見て、「古い=汚い」ではなく「古い=時間を重ねてきた証」なんだと改めて思った。

 

 

思い返せば、古いものが好きなのはずっと前からだ。

25歳のとき、今からもう35年も前の話になるが、アメリカ・アトランタで大工の手伝いをしていた。

その頃から、木の香りや手触りに惹かれていた。

壊れた家具を直すのは楽しくて、直すたびに愛着がわいた。

今のマナラボという塾も、ほとんど自分の手でリフォームしてきた。

床を張り、棚を取り付け、ペンキを塗った。

できることはすべて自分でやってきた。

そういう“自分の手で作る”感覚が好きなんだと思う。

その延長線上で、古い家具を直すようになった。

直すというより、育てる感覚に近い。

 

 

少しずつ磨いていくと、木も器も表情を取り戻していく。

木の呼吸が戻ってくるのがわかる。あの瞬間がたまらない。

最近は、100年前の醤油差しや、オールドカリモクのソファなどを手に入れた。

先日は、古いガラス棚を手に入れた。

 

 

扉のガラスをすべて自分で差し替えている最中だ。

少しずつ手をかけながら、古い家具たちが息を吹き返していくのを感じている。

 

 

 

中古、ユーズド、オールド、ヴィンテージ、アンティーク――

そういう家具や器は、ほとんどが一点モノだ。

同じものは二つとして存在しない。

部屋に置くだけで、空間が一気に“自分の場所”になる。

誰かと同じじゃなくて、自分の感覚で選ぶ。

暮らしに小さな物語を足していく。

それがインテリアの楽しさだと思う。

 

 

まだ古道具屋は始まっていない。

でも、確かに動き始めている。

集めて、直して、磨いて。

少しずつ形が見えてきた。

できれば、来年の桜の咲く頃にはスタートを切りたいと思っている。

今はその準備の真っ最中だ。

 

 

整いつつあるガラス棚を眺めながら、

春の風の中で新しい挑戦を始める自分を想像している。

 


 

モノに手をかけると、自分の中の時間も整っていく気がする。

古い家具や器を磨きながら、いつの間にか自分の心も磨かれている。

塾で子どもたちを見守る時間と、古道具に向き合う時間。

どちらも“育てる”という点で、きっとつながっている。

さて、小さな塾の塾長が始める古道具屋。

どんな店になるのか、自分でも楽しみだ。

次回、その最初の一歩を書こうと思う。

 

 

 

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守田 智司

愛知県蒲郡市にあるMANALABO代表。10代で愛知県から大阪、東京まで自転車で走破!大学中は、バックパック1つで、アメリカ1周。卒業後、アメリカ・アトランタにて「大工」を経験。帰国後15年間、大手進学塾の教室長・ブロック長として教壇に立ち、2005年独立。 大型自動二輪、小型船舶2級免許所得。釣り、ウォーキングが好き!作家は、重松清さん、音楽は、さだまさしさんが好き。「質より量より更新頻度」毎日ブログを更新しています。